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2021年度JKA補助事業

2021年度JKA補助事業「水と窒化鉄からの常温常圧アンモニア合成法の開発」成果報告

本研究室は、2021年度競輪の補助により次の研究を実施しました。

1.補助事業の概要

(1)事業の目的

工業的なアンモニア(NH3)生産法であるハーバー・ボッシュ法に代わるプロセスとして、本研究では新しい温和なアンモニア合成法の開発を目的とした。窒化鉄と水の反応系に、温暖化効果ガスとして削減が求められている二酸化炭素を加えると、反応は常温常圧で進行し、二酸化炭素は炭酸鉄として固定化される。本事業では、この反応の基本的な現象の観察と、アンモニア生成効率の向上をめざした。

(2)実施内容

この反応は窒化鉄と水との間の酸化還元反応であるが、反応の原料と生成物の量を分析すると反応式(Fe4N + 4 H2O + 4 CO2 → 5/2 H2 + NH3 + 4 FeCO3 ―①)とは一致しない部分が見られ、実際の反応過程には未解明の部分がある。また、二酸化炭素の触媒的な作用によって常温常圧下での反応が進行するが、そのメカニズムの詳細はわかっていない。

そこで本研究では、反応原料と生成物の定量分析や組成分析により物質収支を確認し、反応過程の実際を明らかとすることを目的とした。また、窒化鉄の結晶構造と反応性との関係を議論することにより、アンモニア生成を効率化する条件などを検討した。

窒化鉄と炭酸水との反応により生成するアンモニアと水素(H2)の物質量をガスクロマトフラフ法によって定量したところ、上記反応式(①式)とは異なりアンモニア生成量のほうが多かった。また固相のX線回折測定により窒化鉄の消費量と炭酸鉄FeCO3の生成量を定量し、アンモニアおよび水素の生成量と比較したところ、窒化鉄消費量と比べてアンモニア生成量が見かけ上多かった。このことから、窒化鉄格子間からNが拡散・脱出して反応しアンモニアを生成していることがわかった。

また、窒化鉄消費量に比べて炭酸鉄生成量が少なかったため、非晶質のFeの水酸化物などが含まれている可能性が考えられた。これらは副反応の進行により生成している可能性があり、今後引き続き分析していく。

反応系に炭酸ナトリウムNa2CO3を添加すると反応速度が向上し、特にアンモニア生成量が増えることが確認された。炭酸塩の添加によっては、反応系内の炭酸種濃度が増加するだけでなく、水相のpHが上昇するため気液平衡による水相へのCO2の溶解が促進される。窒化鉄中のFeが炭酸と反応することでHが生成し、また酸化生成したFe2+はカルボナト錯体[Fe(CO3)2]2−を形成し水溶性となって窒化鉄表面から離れていくことができるため、炭酸の濃度上昇により反応全体の速度が速くなったと考察した。

2.予想される事業実施効果

本研究では窒化鉄を原料とし、炭酸水の利用により常温・常圧で水を水素源とするアンモニア合成ができることを見出し、反応を効率化する条件をみつけることができた。鉄は安価で普遍的な元素であり、鉄に窒素を化合させた窒化鉄は社会的にも活用が進められている安定な物質である。この窒化鉄粉末を炭酸水と混合するだけで、手軽にアンモニア水が得られる。毒物に分類されるアンモニアは貯蔵に制限があるが、使いたいときに使いたいところで小型の設備でアンモニアを調達できるようになる。また原料として、可燃性で貯蔵や取り扱いに気を使う水素H2を供給する必要がなく、炭酸水を用いて合成ができるため安全である。たとえば二酸化炭素を排出する工場などで、二酸化炭素を大気中へ放出せず固定化するとともに、アンモニアを製造することもできると考えられる。

3.事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 学校法人五島育英会東京都市大学

住   所: 〒158-8557

東京都世田谷区玉堤 1-28-1

担当部署: 研究推進部 外部資金課

 

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